ドクターヘリの広域連携の在り方について考える・・・
町田です。
11月もあっという間にあと1週間を切りました。2年目の初期研修医の皆さんもいよいよ研修も大詰めを迎えています。この時期は各自の選択でローテーションをしている人も多く、当科にもルーチン研修に加えて選択で再び当科での研修を行っている研修医が来ています。
選択で当科を選ぶと、蘇生、外傷初療の勉強、そして救急車同乗実習をへて、当科での研修の最後にドクターヘリ同乗実習を行っています。プレホスピタルの活動を知っていもらうことで、実際に病院で患者さんを受ける立場になった時に、病院前からの活動を意識して病院での診療を継続できる医師に育ってもらいたいですね。
ドクターヘリが全国に配備されてくるとともに、いま大きな話題の一つに「広域連携」があります。
群馬県にドクターヘリが導入される前から、県境に近い消防本部では隣県ドクターヘリと協定を結んでいたり、隣県ドクターヘリ同士が応援協定を結んでいました。そして群馬県、栃木県、茨城県の北関東3県にドクターヘリが配備されてから、『北関東広域連携』というドクターヘリの広域連携としては先駆けとなる協定が結ばれました。
☆北関東広域連携 → http://drheli-gunma.blogspot.jp/2013/01/blog-post_10.html
その後、全国さまざまな地域で広域連携が結ばれてきており、特に重複要請で次事案に対応できない時に隣県ヘリが飛んできてくれることで、さらに一人でも多くの患者さんに早期医療介入が行えるようになってきています。
しかし、そのような中で大きな問題が生じてきていることも事実です。
『北関東広域連携』では、「自県ヘリが出動できない時に隣県ヘリを要請してよい」という文言が入っています。これは①北関東3県が横並びで、②各基地病院が各県の真ん中にあり、③基地病院から50Km圏内の重なった部分にちょうど県境がある、という条件のもとで成り立っています。つまり県内のほとんどの地域でまずは自県ヘリを呼んだ方が早いので、自県ヘリがいけない時は隣県を呼ぼうというルールが成立するのです。
しかしこのルールは必ずしも他地域では当てはまりません。
基地病院の近くに県境があり、隣県の直近の地域の医療圏が基地病院側であったとします。消防との応援協定により隣県でもその地域に迎えたドクターヘリが、広域連携の「自県ヘリがいけない時に隣県ヘリを要請してよい」という文言により急に時間がかかる自県のヘリが要請されるようになることがあります。
10分で行ける隣県ヘリ、30分かかる自県ヘリ・・・重症な患者さんの立場であれば隣県も自県も関係ないと思うのが現場サイドの考え方です。しかしそうもいかないのが事実のようです。もちろんドクターヘリの運用予算の半分は道府県が負担しているので、自治体の意見にも耳も傾けなくてはいけないのですが、同じ医療者から「自県が手薄になるから隣県に行くな」等という意見が出ると正直悲しくなります。
群馬県西部は広域連携の範囲から外れていますが、「群馬県のヘリが栃木県に行ってしまい手薄になってしまう」ということよりも、「栃木県のヘリが東部に応援してくれることによって、西部に群馬県のヘリが出動できる可能性が広がる」ことを理解してくれています。
「自県内でも他県からやってきていた傷病者であったら消防はヘリをキャンセルするでしょうか?」「県医師会に登録している先生は県外の人は診察しないでしょうか?」「市民病院はその市以外の人を診ないでしょうか?」「赤十字病院は社費や寄付金を払っていない人を診ないでしょうか?」「国立病院は外国人を診ないでしょうか?」・・・そんなことは決してしていないはずです。
県境はありますが、ひとは自由に動いています。そして僕たちにはその患者さんがどこ出身であろうと関係ありません。病気やけがで困っている人に手を差し伸べるのが僕たちの役目です。
現在中国地方では知事会が主導で推し進めたドクターヘリの広域連携が運用されており、県境関係なく一番近いドクターヘリを要請するルールになっています。この流れこそ本当に見本とすべき広域連携だと感じています。
紙上では埼玉県も北関東広域連携に加わる予定で動いている書かれてありました。そうなってくると北関東広域連携ももっと複雑な50Km圏内の重なりになります。その時に思い切って県境関係なく近いドクターヘリが要請できるシステムになれば、そして周囲の各県も含めた大きな広域連携になれば、それが患者さんにとって最善の道になるように思います!(もちろんその時は『北関東』という言葉を外すことになると思いますが・・・)
厚労省、行政、消防、病院、地域住民と様々な部門に関わる問題なので一概にこの内容が正しいとは言えないことは分かっています。でも「一番近いところが行けばいいですよね!」と単純に思いませんか?
北関東広域連携はやはり他の地域に当てはめてできるものではありません。そのかわりに中国地方の広域連携はすべての地域に当てはまってできるものだと感じています。いつの日かオールジャパンで連携できることを目指して・・・
*参考までに・・・(HEM-Net報告書より抜粋)
<ドイツにおける救急ヘリコプター(ADAC,DRFなど)>
ドイツの救急制度で「15分ルール」とでもいうべき規則がある。救急法の施行規則の中に初期治療は15分前後の時間内に着手しなければならない旨の制限が定められている。
救急ヘリコプターは最大15分、平均8分で医師を患者のもとへ送りこむ。したがって各機の担当する出動範囲は半径50km以内で、必ずしも行政区画にしたがっているわけではない。むしろ山や峠など自然の障害によって決まることが多く、市町村の境界を越えて飛行している。
南部の国境付近、アルプスを越えた地域への飛行は、スイス(REGA)との間に協定を結び、ヘリコプター救急を依頼している。
とびっきりの笑顔の1枚! (給油からの帰りにパチリ) |
選択で当科を選ぶと、蘇生、外傷初療の勉強、そして救急車同乗実習をへて、当科での研修の最後にドクターヘリ同乗実習を行っています。プレホスピタルの活動を知っていもらうことで、実際に病院で患者さんを受ける立場になった時に、病院前からの活動を意識して病院での診療を継続できる医師に育ってもらいたいですね。
ドクターヘリが全国に配備されてくるとともに、いま大きな話題の一つに「広域連携」があります。
群馬県にドクターヘリが導入される前から、県境に近い消防本部では隣県ドクターヘリと協定を結んでいたり、隣県ドクターヘリ同士が応援協定を結んでいました。そして群馬県、栃木県、茨城県の北関東3県にドクターヘリが配備されてから、『北関東広域連携』というドクターヘリの広域連携としては先駆けとなる協定が結ばれました。
☆北関東広域連携 → http://drheli-gunma.blogspot.jp/2013/01/blog-post_10.html
その後、全国さまざまな地域で広域連携が結ばれてきており、特に重複要請で次事案に対応できない時に隣県ヘリが飛んできてくれることで、さらに一人でも多くの患者さんに早期医療介入が行えるようになってきています。
しかし、そのような中で大きな問題が生じてきていることも事実です。
『北関東広域連携』では、「自県ヘリが出動できない時に隣県ヘリを要請してよい」という文言が入っています。これは①北関東3県が横並びで、②各基地病院が各県の真ん中にあり、③基地病院から50Km圏内の重なった部分にちょうど県境がある、という条件のもとで成り立っています。つまり県内のほとんどの地域でまずは自県ヘリを呼んだ方が早いので、自県ヘリがいけない時は隣県を呼ぼうというルールが成立するのです。
しかしこのルールは必ずしも他地域では当てはまりません。
基地病院の近くに県境があり、隣県の直近の地域の医療圏が基地病院側であったとします。消防との応援協定により隣県でもその地域に迎えたドクターヘリが、広域連携の「自県ヘリがいけない時に隣県ヘリを要請してよい」という文言により急に時間がかかる自県のヘリが要請されるようになることがあります。
10分で行ける隣県ヘリ、30分かかる自県ヘリ・・・重症な患者さんの立場であれば隣県も自県も関係ないと思うのが現場サイドの考え方です。しかしそうもいかないのが事実のようです。もちろんドクターヘリの運用予算の半分は道府県が負担しているので、自治体の意見にも耳も傾けなくてはいけないのですが、同じ医療者から「自県が手薄になるから隣県に行くな」等という意見が出ると正直悲しくなります。
群馬県西部は広域連携の範囲から外れていますが、「群馬県のヘリが栃木県に行ってしまい手薄になってしまう」ということよりも、「栃木県のヘリが東部に応援してくれることによって、西部に群馬県のヘリが出動できる可能性が広がる」ことを理解してくれています。
「自県内でも他県からやってきていた傷病者であったら消防はヘリをキャンセルするでしょうか?」「県医師会に登録している先生は県外の人は診察しないでしょうか?」「市民病院はその市以外の人を診ないでしょうか?」「赤十字病院は社費や寄付金を払っていない人を診ないでしょうか?」「国立病院は外国人を診ないでしょうか?」・・・そんなことは決してしていないはずです。
県境はありますが、ひとは自由に動いています。そして僕たちにはその患者さんがどこ出身であろうと関係ありません。病気やけがで困っている人に手を差し伸べるのが僕たちの役目です。
現在中国地方では知事会が主導で推し進めたドクターヘリの広域連携が運用されており、県境関係なく一番近いドクターヘリを要請するルールになっています。この流れこそ本当に見本とすべき広域連携だと感じています。
紙上では埼玉県も北関東広域連携に加わる予定で動いている書かれてありました。そうなってくると北関東広域連携ももっと複雑な50Km圏内の重なりになります。その時に思い切って県境関係なく近いドクターヘリが要請できるシステムになれば、そして周囲の各県も含めた大きな広域連携になれば、それが患者さんにとって最善の道になるように思います!(もちろんその時は『北関東』という言葉を外すことになると思いますが・・・)
厚労省、行政、消防、病院、地域住民と様々な部門に関わる問題なので一概にこの内容が正しいとは言えないことは分かっています。でも「一番近いところが行けばいいですよね!」と単純に思いませんか?
北関東広域連携はやはり他の地域に当てはめてできるものではありません。そのかわりに中国地方の広域連携はすべての地域に当てはまってできるものだと感じています。いつの日かオールジャパンで連携できることを目指して・・・
*参考までに・・・(HEM-Net報告書より抜粋)
<ドイツにおける救急ヘリコプター(ADAC,DRFなど)>
ドイツの救急制度で「15分ルール」とでもいうべき規則がある。救急法の施行規則の中に初期治療は15分前後の時間内に着手しなければならない旨の制限が定められている。
救急ヘリコプターは最大15分、平均8分で医師を患者のもとへ送りこむ。したがって各機の担当する出動範囲は半径50km以内で、必ずしも行政区画にしたがっているわけではない。むしろ山や峠など自然の障害によって決まることが多く、市町村の境界を越えて飛行している。
南部の国境付近、アルプスを越えた地域への飛行は、スイス(REGA)との間に協定を結び、ヘリコプター救急を依頼している。
県立広島病院救急科の多田です。中国地方の広域連携に言及していただきありがとうございます。
返信削除中国地方は、広島県が最後の1ピースだったため、広島県導入を機会に、5県連携が実現しました。
どこから話が始まったかは定かではありませんが、HEM-netの研修で、研修中に感じたり、研修先で教えていただいたりした、目に見えない県境という境を最初からとりはらいたいという気持ちはスタッフ全員にあったことは確かです。
スタートからそれを実現できたことは、後発のドクターヘリのメリットだったと感じています。
実際の運航状況ですが、現在まででざっくり言うと1/4が県外からの要請です。
全国のドクターヘリが、見えない県境にしばられることなく、患者さんの元へ飛べるようにしていかないといけませんね。
多田先生、いつもコメントいただきありがとうございます。
返信削除先日の日本航空医療学会では、中国地方の広域連携の発表を感激しながら拝聴しました。
当たり前のことをするのに壁が多いこの時代に、当たり前に隣県ヘリを要請できる文化がしっかりと根付いたようですね。
北関東広域連携は本当に地理上に恵まれた連携です。しかし3県だけで終わらせてはいけない連携であり、そうなると自県優先というしがらみを外した要請が行えるようにしないといけないです。
群馬県内の出動でも栃木県に応援出動するときも気持ちは変わりません。傷病者のために今できるベストを、医療も消防も行政も常に考えながら活動したいですね!