【医療従事者向け】病院におけるwithコロナ時代の心肺蘇生

丸山です。
新型コロナウィルスの第3波がやってきて、様々な場面でより一層コロナ対策を意識した対応が求められるようになりました。その1つが心肺蘇生法です。

目の前で人が倒れている!
意識がない。 → 周りの人に助けを求めよう!
呼吸も。。。していない → 胸骨圧迫(心臓マッサージ)だ!

今まではこのようにより早く心臓マッサージをするように指導されてきました。しかしながら、昨今のコロナウィルス感染拡大に伴い感染予防の観点から心肺蘇生の方針が大幅に変更になりました。
今回は病院におけるCOVID-19対応救急蘇生法のご紹介です。COVID-19の患者の話かーと侮るなかれ、現在はどこに無症候性キャリア(潜在的にCOVID-19に感染している人)がいるかは分からないので今後はこれから紹介する心肺蘇生法がスタンダードとなっていく可能性も十分あり、当院ではすでに院内急変患者の対応は全てCOVID-19患者用の装備で行っています。ただし、これからお話しする内容はあくまで【病院における】蘇生法ですので街中での心肺蘇生とは別物ですのでご注意ください(最後に【病院外用】の「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法についての指針」についてもご紹介します)。

今回の参考文献は日本蘇生協議会のHP(https://www.japanresuscitationcouncil.org/)からになります。11月中旬に同学会から「病院における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応救急蘇生法マニュアル」が発布されました。この中の今までとの相違点を私なりにピックアップしてみました。参考になれば幸いです。



まず今回の改訂のポイントは「医療従事者の感染リスク軽減が第一としつつ、救命に対応しなくてはいけない」ということに尽きます。具体的には以下の内容となります。
① PPE(今回はエアロゾル感染防護用個人防護具を指す)を着るまでは胸骨圧迫を開始してはいけない。
② PPEを着るには時間がかかってしまうので、初めに数人だけサージカルマスクと手袋装着のみで患者に接触することを許容する。しかし、出来ることは「心停止の確認」「AED貼付」「電気ショック」のみ!
つまり、「心停止を疑ったらまず胸骨圧迫!」ではなくAEDを持ってきて貼ることになりました。これは胸骨圧迫の時に肺も一緒に押されてしまい、患者から断続的に呼気が発生するからです。同様の理由で患者のところへ行ったらまず「サージカルマスクを患者につける」ことも勧められています。今までなら「死にそうな人の鼻と口を塞ぐなんて言語道断!!」と怒られてしまいそうな行為ですが、感染予防のためには仕方がないということのようです。ただし、初めから医療者がPPEを着ている状態(例えばCOVID-19と分かっている患者さんの診察中など)で目の前の患者が心停止した場合はすでに感染対策は出来ているため、いつも通り胸骨圧迫を開始して誰かがAED(or 除細動器)を持ってくるのを待ちます。
③ PPEを着ているとしてもエアロゾル予防のため完全な密閉が得られなければ補助換気をしない。
④ 完全な密閉が得られるようにバック・バルブ・マスクを用いる時は「2人法」で密閉担当と換気担当を分ける。そして、バック・バルブ・マスクには高効率微粒子エアフィルター(HEPA)を用いること。
⑤ 気管挿管は熟練者が行い、挿管処置時は胸骨圧迫を中止すること。

      
こちらも徹底したエアロゾル感染予防を推奨しています。PPEで感染防護が既に出来ているとしても念には念を。隙間ができるようなら換気(呼吸の補助)はしないし、口腔内を覗く気管挿管の手技の時は胸骨圧迫で呼気が発生すると真正面から浴びることになるので必ず胸骨圧迫はやめてもらう。そして、それを正確に迅速に行うためにベテランに任せること!という内容になっています。

上記の内容を読んでいると「公園にPPEなんか置いてないよ。」「うちのクリニックに気管挿管のプロなんていないよ。」という声が聞こえてきそうですが、あくまでこれは設備と体制が整った【病院用】心肺蘇生法です。病院外での心肺蘇生はまた別の指針が出ていまのでそちらもご紹介します。日本救急医療財団が発布しているものでタイトルは「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について (指針)」というものです。

こちらのポイントもエアロゾル感染予防を見据えたものです。
① 近づき過ぎないように注意しながら意識と呼吸をしているかの評価をする。
② 胸骨圧迫を始める前には傷病者の鼻と口にタオルやハンカチをかぶせる。
③ 大人には人工呼吸を行わない。子供は実施者に技能と意志があるなら人工呼吸を行う。ただし、ためらいがある場合は胸骨圧迫のみ行う。
やはり傷病者の鼻と口をガードすることが盛り込まれています。また、大人と子供で対応が異なりますが、これは大人では心臓の病気による心肺停止が多いのに対し、子供では窒息や溺水など呼吸原性(呼吸の問題が原因)の心肺停止が多いため、人工呼吸が心肺蘇生手技において重要であるため、やむを得ずこのような推奨をされているのだと考えられます。

今回のお話を聞いていると心停止患者への救助に対し消極的な気持ちが出てきてしまうかもしれませんが、最後に日本蘇生協議会の通告で勇気を持てる文章がありましたのでそれを引用させていただきたいと思います。
「わが国では、毎年7万人を超える心原性院外心停止が発生しており、市民救助者によるCPR(心肺蘇生)とAED を用いた電気ショックの実施は、院外心停止傷病者の社会復帰のために必要不可欠である。 市民救助者がCPRを行うことによって感染し死亡するリスクは、院外心停止傷病者を救命する効果と比較して極めて小さいと報告されている。感染対策に十分配慮した上で、市民による救助が推進されることを期待したい。」

本日は以上です。いつかの時のために家族の誰かのために心肺蘇生の方法を勉強された皆様、COVID-19の感染拡大により今まで以上に慎重にならなくてはいけない部分もありますが、是非学んだ知識・技術を生かし、救命の連鎖の1つ目の輪を担ってください。ドクターヘリ・ドクターカーで私たちがお迎えに行き、生まれた救命の連鎖をつなぎ、全力で救命に臨みます!
今後ともどうぞよろしくお願い致します。


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