「世界保健機関国際緊急援助隊熱傷災害診療ガイドライン作成委員会」活動報告 vol.2

(vol.1から続き)
 
我々はまず、201710月にWHO本部に出向き、会議の資料作りを行いました。とても大変でした(笑)。なぜなら、下準備ゼロから始まったからです。Dr.林が「Do you know PubMed??」と聞かれ、「Yes, but are there any draft statements for the meeting?」と聞いても「Nothing!!」と笑顔でかえされた始末です。なんと、そこから文献収集をし始め、我々だけではどうにもならないので、日本熱傷学会や当院の救急科の医師にも協力をいただきながら、最初の1週間で350編以上の文献を収集し、残りの1週間で会議にて議論する項目について、全てまとめ上げました。地獄でした(笑)。
 
そして更に嬉しい?地獄は続くわけですが、次に課せられたミッションは、201712月の本会議に向けた資料作りでした。定型のレポート用紙を作成したいとのことで、書式はコレ!との指示をうけ、議論すべき項目のそれぞれについてまとめました。
まとめの内容は、
ケースシナリオを提示
Problem statement or EMT Challenge
Evidence and literature review(文献のまとめ)
References(出典元の列挙)
Recommendation or Justification(提言の案の作成)
Discussion(考察)
です。
準備期間は一週間。なんと充実した一週間を送らせてくれるのか!!!トキメいた事を今でも良く覚えています(笑)。
 
そんなこんなで、EMT活動についてのサマリー、災害時における熱傷の重症度判定、災害時における熱傷のトリアージ、災害時における生存不可能な熱傷の定義、災害時における緩和ケア、災害時における熱傷蘇生、災害時における気道熱傷のマネージメント、災害時における創傷被覆、災害時における熱傷手術、熱傷災害専門チームのスタッフ構成、熱傷災害専門チーム育成のための教育とトレーニング、災害時の血液生化学検査、災害時のインフラ整備、熱傷災害時の携帯資機材、化学兵器・生物兵器・放射性物資・核兵器等による熱傷、などの15項目について検討し、レポートを作成しました。
なんとこの間、Dr. Ianとは全く連絡がとれず(出張で太平洋諸国へ旅立ったため)、やむなく我々二人で会議の資料作りを完遂しました。本当にこんなんで良いのか?わからぬまま、ただただ、ひたすらに走り続ける日本人。こうして会議資料の作成は、二人の日本人のつたない稚拙な英語で、作成されてゆくのです。まぁ、完成度の低いこと低いこと。。
 
でも、それでそのまま、本会議に突入してしまったのです。ありえない!!(笑)。
しかし、ビビる暇もなく、会議は進んでいきます。参加した団体としては、国際熱傷学会、国際赤十字、国際リハビリ学会、イギリス、オーストラリア、イスラエル、ノルウェー、スウェーデン、ベルギー、フランス、インド、シリア、ガーナの熱傷学会の専門家合計30名で大議論です。
残念ながらアメリカ熱傷学会からの参加は見送られていましたが、大議論に大議論


 
本当のところ、何を言っているか?全くわからない時も多々あり。会議が終わると、我々に「会議の議事録作ってね!」ってことになり、再び唖然(笑)。Dr.林先生のファインプレーで持参したボイスレコーダーに記録された、何とも優雅な英語のオンパレードを何回もリピートして聴きながら、議事録とサマリーのスライドを作ってゆきます。
そんなこんなで、会議は会期を分けて合計3回ありました。1回目は英国のSwansea Universityで、2回目はスイスのGenovaで、3回目はインドのNew Deliで。必死でしたよ、心の底から。
 
そうやって1年半にわたり、我々はWHO EMT technical working groupで活動してきました。そしてひとまず、その活動はfinalizedされたのです。
現在、我々の活動の結果は、提言書として発行の段階へと進んでいます。一番難しかったのは、先進国と発展途上国とでイメージする治療内容にかなり差があり、そのギャップを埋めながら提言をまとめることでした。でも、その作業がまさに、グローバルな視点で物を考えるということだったのです。
WHOでの経験を通し、我々は一人の医師として、少しだけ成長できたと思います。このような機会を与えて下さった日本熱傷学会に心より感謝申し上げるとともに、我々の活動を影で支えてくださった家族、そして前橋赤十字病院のスタッフの皆さまに、厚く御礼を申し上げ、結びの言葉としたいと思います。

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