日本赤十字社本社・第2ブロック支部災害救護訓練に参加しました。

前橋赤十字病院 集中治療科・救急科 原澤 です.
今年は各地での地震、火山災害など局地災害への対応が多い1年でした。どのような災害にも
急性期対応に引き続いて、家族を含めた中長期的な支援が必要になることが多くあります。
当院も急性期はDMAT(初動救護班)、亜急性期~慢性期は救護班で継続した救護が行えるような体制をとっています。


何かと最近は急性期対応のDMATに目が行きがちですが、歴史が長い救護班活動についても平時より研修や訓練を行っています。だいぶ遅くなってしまいましたが,平成2611月34日と,日本赤十字社本社・第2ブロック支部の合同訓練が開催されました.


日本赤十字社本社(東京・日本赤十字社医療センター)と第2ブロック(茨城県支部,栃木県支部,群馬県支部,埼玉県支部,千葉県支部,神奈川県支部,東京都支部,山梨県支部,新潟県支部)が一同に介し,大規模災害を想定した訓練を行いました.
 
今回の想定は,「112AM10時,埼玉県さいたま市を震源とするM7クラス(震度7)の直下型地震」が発生.「発災翌日(26時間後)に現地参集し活動開始」というものでした.
 
まず「26時間後に参集」というところから,参集する訓練を行いました.12時活動開始を予定して,11時前後の時間帯に,さいたまスーパーアリーナに到着するよう,各支部で運行計画を組み,各支部の車輌で向かいました.我々群馬県支部は,830分に前橋赤十字病院を出発,概ね予定通り,1120分頃に現地へ無事到着できました.各支部とも問題なく参集し,次の活動内容指示を受けました.その内容は,「さいたまスーパーアリーナ内に現場救護所を設営,運用する」というものでした.
 
現場救護所,といってもイメージしづらいと思うのですが,病院外に仮説の病院・診療所を設営し,その中でトリアージと応急処置を行ない,必要に応じてより高度な医療施設への搬送を判断し手配する,というのが大まかな内容です.
 
 
今回の訓練で私が初めて経験した指示は,「ある程度の期間,運用継続可能な施設を設営する」というものでした.理由としては「①さいたま市内である程度の機能が残存しているのは,さいたま赤十字病院のみ」「②さいたま赤十字病院は,トリアージタッグ赤(緊急度が高く,すぐに高度な治療介入をしないと救命できない)患者を数十名対応しており,既に参集したDMAT 30隊の補助を受けているものの,手一杯の状態である」という2点の状況が追加されたためです.他に活動可能な医療施設がなく,トリアージタッグ黄(歩行は困難で,超緊急処置は必ずしも必要ないが,一定の評価と治療は必要である)とトリアージタッグ緑(歩行は可能だが,治療介入の必要がある可能性もある)の患者への対応が事実上不可能な状態になっており,その対応を現場救護所が担おう,というものでした.
 
いままで私がイメージしていた「現場救護所」は,短期的にトリアージと応急処置を行ない,赤・黄の患者を順位付けして医療機関へ搬送する,というものでした.しかし大規模災害になり,ライフラインも麻痺した状態になると,搬送する「医療機関」がかなり限定され,現場救護所が「医療機関」の肩代わりをしなければならない状況が生じうる,ということを意識させられました.
 
その想定の中で,12時から13時までの1時間で,設置されていたテントなどを用いて診療ブースの設営を行ない,13時から実際の患者(模擬患者さんがやってくださいました)への対応を行いました.詳細は煩雑かつ専門的になるので割愛しますが,非常にごちゃごちゃした状態となってしまいました.途中休憩をはさみ,休憩時に変更・修正すべき点を話し合って,後半に望みました.後半は,修正の甲斐あってか,前半と比べるとかなり上手く患者対応ができるようになっていました.
 
 
実際に訓練を終えてみて感じたのは,長期的運用の難しさでした.たった1時間30分だけの訓練でも,かなり患者数が多く,設営していたテントに収まりきらない数の入院待機患者が発生してしまった,という状態で,これが丸1日,場合によっては数日単位で続くとすると,すぐに医療資源や医療者側の体力が底をついてしまいそうだなと思いました.
 
本来なら酸素投与や点滴だけでしばらく時間を稼げる状態の患者さんが,点滴の不足や酸素の制限により状態が悪化していく,というリスクを常に考えながら医療資源の配分をしていかなればならない,というのは通常時(医療資源が十分に有る場合)との大きな違いで,災害医療の基本ではあるのですが,実際にその状況に追い込まれた場合,我々医療者は何とも無力なものになってしまうのだな,と改めて感じました.その状況を作らないために,平時から災害対応の準備をしておくこと,医療資機材の準備を怠らない事,というのが大事だということを再認識しました.
 
 
一方で,日本赤十字社の力というものも感じられました.各支部から集まった医療スタッフもさることながら,災害ボランティアの方々や,支部の皆さんがいなければ,活動の維持は困難なものとなります.特にボランティアスタッフの方々の力は,資機材・人員が不足する環境で,非常にありがたいものでした.医療スタッフにできることは,「自分たちの力だけでの運用には限界がある」という事をしっかり理解して,「お願いできることはお願いして」負担を分散し「自分たちができること,やるべきことを明確にしてそこに力を注ぐ」ということなのかな,と思いました.
 
医療者としてではなく,一市民としても,災害の準備はしておかないといけないと感じました.自分の周りの人が安全でない環境で,医療者としての十分な活動はできないからです.日頃から準備をしておかなければいけないなぁ,と改めて思いました.
 
 
最近,御岳山の噴火や,大雨・大雪に伴う被害がニュースで流れています.気候が不安定になっている,以前とは違うという印象は,おそらく皆さんも受けていることと思います.この冬もまた都市部の大雪などがやってくるかもしれません.事前の準備をし,落ち着いて対応ができるように,またその中で余裕があれば,周りの助けになれるように,日々を過ごしていこうと思います.
 
 
 
追記:年の瀬になり気候も厳しく,病院に来る患者さんも重症の方が増えております.年末年始の休みも長く,今週いっぱいで休みとなってしまう医療機関も多いと思います.皆さん,無理をして具合が悪くなる前に,くれぐれも早め早めの受診をお願い致します.

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