ラリーのコースドクター!vol.1

こんにちは。初登場の青山です。

今回72627日と、群馬県嬬恋村周辺で開催された「全日本ラリー第5戦、モントレー2014 in 群馬」のコースドクターとして参加してきました。ラリー競技は一般の公道を一部封鎖して開催される、タイムアタック方式の自動車競技です。ラリーといえば群馬といわれるほど、群馬県ではラリーが盛んなのです。よく知られた走り屋漫画、「イニシャルD」も群馬県を舞台にしており、多くのファンに支持されています。日本人最速のラリードライバー、世界の新井敏弘選手も群馬県在住です。ラリーで有名な自動車メーカー、「スバル」の工場や開発拠点も群馬県内に数多くあります。群馬は昔から著名なドライバーを数多く輩出してきた、由緒正しいラリーの聖地なのです。

 

この歴史あるイベント、「モントレー」が今年から嬬恋村周辺を舞台に行われることになりました。嬬恋村周辺と言えば、当院のドクターヘリも度々、救急搬送で出動がある地域です。今回は日本の頂点のラリー競技であり、しかもハイスピードな舗装のコース。我々に課せられた責任も重大です。

我々はコースのスタート地点にFIVFirst Investigation Vehicleの略。まっさきに現場介入する車両の意味です)として待機します。救急隊員、看護師もFIVメンバーにおり、充実した布陣です。今回のラリーでは3チームのFIVが待機することとなりました。実はこの3チームの医師全員がラリー経験者なのです。搬送用の資機材もそろえ、専用無線を装備しつつ、万が一の事態に備えます。我々が担当したのは全17本のSSSpecial Stageの略:タイム計測区間のことです)のうち1日目のSS1SS4SS7SS10、二日目のSS14SS16の計6本でした。
 

 


競技車が到着すると、スタートのオフィシャルスタッフがスタートタイムを記載したカードをクルーに渡して、1分間隔で競技車をスタートさせていきます。コース内には数キロごとに通過確認のスタッフが配置されており、車両のゼッケンを確認しながら通過を無線で報告してきます。こうやって我々が競技車両の現在位置を把握することができます。
  1分ごとに次の車両がスタートしていくので、クラッシュやマシントラブルなど、もしものことがコース内で起きた場合にはもたもたしている暇はありません。迅速に判断し、次の競技車両のスタートを待たせたり、通過してゴールした車両から情報を得たりします。

競技車両には「SOS」と「OK」が大きく書かれたボードの車載が義務づけられており、救助が必要な場合は後続車に向けてSOSサインを提示することになっています。(SOSサインさえ出せないような深刻な状況もあり得るのですが…)そして必要な状況下において、我々FIVの登場となります。現場に迅速に駆けつけ、救助にあたります。それはまさに交通事故の際の院外初療活動そのものです。
 


 
ここで、競技車両は普通の車と違って、安全装備としてロールケージというジャングルジムのような棒が張り巡らされています。転倒しても車室がつぶされないようになっているのです。また、ドライバー、コドライバー(ラリーは2人乗車で競技をしています。助手席ではペースノートというコースの詳細を記載したノートを読んでドライバーをナビゲートしています。)はバケットシートという体を包み込むようなシートに、4点式以上のシートベルトでくくりつけられています。彼らはヘルメットをかぶり、難燃性のレーシングスーツに身を包んでいます。クラッシュ現場は一様ではなく、時には転倒して上下逆さまの車両からクルーを助け出さなければならないこともあります。衝突の衝撃で意識を失っている可能性もあります。ひどいクラッシュでは車から救助するだけでも大変で、車両火災や爆発の危険があったり、ドアさえ開かないこともあります。

一般的な自動車事故の場合、救急隊は頸椎保護、いわゆる首をまもりながら、車外に助け出すことが多いのですが、ラリーFIVでも同様に頸椎保護には細心の注意を払います。衝突時に首にかかる負担は想像を絶する大きさです。助け出す際に首を動かしてしまって脊髄を損傷し、麻痺を起してしまっては元も子もありません。前述のように、ロールケージが張り巡らされた狭い車内から、ヘルメットをかぶっている大きな頭のラリークルーを首を保護しつつ救助するのは実に大変なことなのです。しかも事は一刻を争います。

競技車両の安全装備は非常に効果的で、最近はヘルメットと合わせて頸椎保護デバイスを使用している選手も多いです。日本人の体格に合った日本製の頸椎保護デバイスがないのは非常に残念ですが…。しかも価格が高いんですよ。普及が遅れている一因です。

 車外に助け出したら即座に診察をしつつ重症度の判断を行い、処置を行います。必要であればドクターヘリを含めた搬送支援要請を行います。限られた資機材での現場活動より、ヘリコプターや救急車で病院搬送を急いだ方がより良い結果が得られることがしばしばあります。こんな場合に、日常からの救急隊や病院間連携のスムーズさが威力を発揮します。
  また、イベントでは競技クルーだけでなく、観戦者やスタッフにも医療支援が必要な場合があります。今回も高地でありながら予想以上に気温が上昇し、観客やスタッフにも熱中症様の症状を訴える方がいらっしゃいました。こまめな水分補給や日焼け止めの使用、日陰での体温調節等をアドバイスさせていただきました。


(Vol.2へつづく・・・)

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