キャンセル率が低すぎる・・・(群馬県ドクターヘリ4月実績速報付)

集中治療科・救急科スタッフ&フライトドクターの町田です。


新年度が始まりあっという間に1ヶ月がたちました。
東日本大震災の被災地への継続する救護班の派遣を続けながら、日常の高度救命救急センターとしての業務も変わることなく行っています。4月からの新スタッフも来たばかりとは思えないくらいの働きぶりで頼もしい限りです。

ドクターヘリも2011年度の運航が始まりましたが、残念ながら最初の1ヶ月は昨年の4月より要請数が減っています。未出動が減ったため出動数は増えていますが、問題なのは毎月実績報告のたびに書いているキャンセル率の低さです。4月は46件の要請に対して39件の出動がありましたが、39件中で出動後キャンセルは1件しかなく、キャンセル率は2.5%と全国でも最低レベルに落ち込んでいます。(ただし未出動の中で2件はドクターヘリが離陸前に現場救急隊判断でキャンセルとなっており、要請全体ではキャンセル率は6.5%でした・・・といっても高い数字ではありません。)さらにもともと極端に少なかったのではなく、どんどん減ってきているのです。
消防の早期要請によって救出中の
傷病者のもとに早く到着し、救出中
から治療開始することもできます。
出動数が多いことが県民にとっては決して良いことではないかもしれませんが、本当に“防ぎえた死ゼロ”を目指すためには『アンダートリアージをなくすために、オーバートリアージ20-30%は許容される!』と言われています。あとになって“ドクターヘリで早く治療を開始すればよかった”と思ってもすでに手遅れです。群馬県ではドクターヘリは消防の要請なしで傷病者のもとへ離陸はできません。群馬県にドクターヘリというシステムが導入されている限り、そのシステムをより有効に生かせるかどうかを大きく担っているのは消防関係の皆さんの判断にかかっています。
2010年度は2009年度より出動が200件も増えて、運航開始して2年ちょっとで年間500出動を超えたのも消防関係の皆さんの多大なる協力があったからこそだと思っています。ただここ数か月のキャンセル率の低下、要請までの時間の延長は、今後の群馬県ドクターヘリ事業の衰退につながる可能性があります。群馬県の救急医療のポテンシャルはもっともっとあるはずです!今月はドクターヘリ症例検討会もありますので、ドクターヘリ要請の判断を妨げるものが何なのかもディスカッションしていく必要があるように感じています。(消防関係者の本音も聞きたいという目的で企画した勉強会も、今のところ桐生市消防本部通信指令課のみとしか開催できておりません。)

東日本大震災の翌日に患者後方搬送で当院に来た千葉県北部ドクターヘリ。
年間700件を超える出動実績があり、千葉県南部ドクターヘリが導入以降も出動件数が増えています。
群馬県ドクターヘリ導入にあたり、当院フライトドクター・ナースが全国のドクターヘリ基地病院に研修
にいきました。そのうちドクター2名・ナース1名が日本医大千葉北総病院でお世話になりました。


☆☆群馬県ドクターヘリ 2011年4月実績(速報)☆☆

<要請・出動>
ドクターヘリ要請:46件(昨年度4月-7件)
ドクターヘリ出動:39件(昨年度4月+3件)、未出動:7件(昨年度4月-10件)
・現場出動:30件
・施設間搬送:7件
・出動後キャンセル:1件(キャンセル率:2.5%)
・その他の出動:1件
*その他の出動とは、他病院に医療スタッフ・医療資器材を送ったり、臓器移植の臓器を搬送したり、血清・輸血などの搬送が含まれます。(今回は、当院のフライトドクター・ナースを重傷者が搬送された他病院の救急外来に送り込みました。)

<要請元消防本部>要請/出動
・吾妻広域消防 10/9件
・前橋市消防 7/5件
・多野藤岡広域消防 6/5件
・太田市消防 6/5件
・桐生市消防 5/5件
・伊勢崎市消防 4/3件
・渋川広域消防 3/3件
・高崎市等広域消防 2/1件
・利根沼田広域消防 1/1件
・館林地区消防 1/1件
・富岡甘楽広域消防 1/1件
 
本文ではキャンセル率についていろいろ書いてしまいましたが、4月も3月に引き続き県内全消防本部から要請がありました。県内各方面にくまなく出動しているのは群馬県の大きな特徴といえます。また今月も新たに4か所のランデブーポイントを使用させていただき、着陸したランデブーポイント数は214ヶ所になりました。いつもご協力ありがとうございます。
 
<搬送先病院>
・13名 前橋赤十字病院
・4名 高崎総合医療センター
・3名 群馬県立心臓血管センター、群馬大学医学部附属病院、桐生厚生総合病院
・2名 佐久総合病院(長野)、足利赤十字病院(栃木)
・1名 東邦病院、公立藤岡総合病院、総合太田病院、伊勢崎市民病院、原町赤十字病院
 
4月も多くの病院に患者を受け入れていただきありがとうございました。ドクターヘリでまず傷病者に接触し初療を行い、その病態に応じて適切な病院選別を行い、可能であれば近辺の病院に搬送するというmedical controlが確立されつつあります。これも傷病者を引き受けていただける病院が多くあることのおかげだと考えております。これからもご協力よろしくお願いします。
先月末に待望の多野藤岡広域消防本部への着陸シミュレーションが行われ、公立藤岡総合病院に最も近いランデブーポイントが使用可能になりました。重複要請が増えてきているなかで、傷病者を多く受けてくださっている病院の直近にランデブーポイントがあることは、時間短縮のために大いにうれしいことであります。

(搬送先病院からランデブーポイントに戻ってきたフライトドクターが撮影)
搬送先病院とその病院に搬送するために設定されたランデブーポイントが遠い場合は、
搬送先病院へ傷病者搬送中にドクターヘリは群馬ヘリポートに給油をしに行くことがあります。
連続出動が入った際は、申し送りが終わりしだい搬送先病院から救急車の緊急走行で
ランデブーポイントに戻って、エンジンカットをせずにドクターヘリに乗り込み次の出動に向かいます。

コメント

  1. 地域救急医療へのご献身、頭が下がります。
    小生が聞いたことがあるのは、「アンダートリアージを避けるためには、2、3割程度のオーバートリアージは許容される」というような表現で、かならずしもキャンセル率ではないような気もします。
    現場に着いてみたら、救急車でゆっくり行っても間に合う症例だった…というのも合わせて2、3割は許容、というように考えてはダメでしょうか?

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  2. 匿名さん、コメントおよびご指摘ありがとうございました。

    米国外科学会外傷委員会(ACSCOT)のガイドラインでは、アンダートリアージ率を許容できる5~10%にする為には、オーバートリアージを30~50%まで上昇させる必要があり、外傷センターでは50%を越えるオーバートリアージが適切であるとされています。確かに2,3割のキャンセル率を求めているわけなく、本文の表現が誤っていました。誠に失礼しまいたしました。(先ほど本文の誤表記を訂正させていただきました。)
    ただ、やっぱり群馬県の最近のキャンセル率は低すぎると思います。ドクターヘリは要請がないと傷病者のもとへ向かえません。“もっと早く治療が始まればよかった”と思っても時間を戻すことはできません。群馬県にはすでにドクターヘリが導入されている…だからこそ助けられる命が増えるはず…そこだけは理解していただきたいと考えています。

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  3. 重傷なのか疑わしいとき、迷ったときは、まずドクターヘリを呼ぶ、その後軽症と判明すればキャンセルする。というのが定着すれば、キャンセル率はもっと上がるのでしょう。
    ご存知かと思いますが、兵庫県但馬のドクターヘリのでは、通報時に使われる言葉、それも医学的専門用語でなく通報者が使うであろう「倒れている」「痙攣している」「車内に閉じ込められている」などの言葉で出動要請を判断するキーワード方式で即ドクターヘリ要請をする、という消防との取り決めが積極的に運用され、運用初年度にして国内最多の出動回数に繋がっています。地域の消防との緊密な連携がやはり重要なのでしょう。
    まだまだドクターヘリ未配備の県も多い中、せっかく持っている強力な救命ツールを使わない手はありません。地域の消防にヘリコプターを使い倒していただいて、一人でも多くの命が救われることを願っております。

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  4. 匿名さん、ありがとうございます。

    私の言いたいことも、まさに匿名さんがコメントしていただいたことそのままなのです。

    キーワード方式については導入しようかどうか考えていますが、消防と話し合う機会が少なすぎるためか正直いってまったく進んでいません・・・
    ドクターヘリの出動するきっかけが自分たちのもとにないので、そこが正直つらいところです。それでも早期要請によって救命や後遺障害を減らすことができたときは、本当に群馬県は恵まれているなぁと感じることがあります。だからこそ空飛ぶ救命センターをもっと利用してほしいと思います。

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