病院中のベッドがない状態で・・・

集中治療科・救急科&フライトドクターの町田です。

群馬県ドクターヘリホームページをちょっとだけリニューアルしました。基本的に内容は変わっていませんが、“運航体制”と“出動の流れ”の部分を中心に構成を変更しさらに見やすくしました。 



週末の都内の朝も雪でした。
(JATEC会場への散歩中の1枚)
今年は2月に入ってから群馬も平野部でよく雪が降ります。昨晩もかなりの雪が降り、夜中には道路にも雪が積もっている状態でした。昨日は夕方の時点で、救命センター病棟1床以外は病院中に空きベッドが全くない状態になっていました。そのような中で当直帯に突入、しかもこの日は小児も成人も2次救急輪番の当番日でした。救急隊も当院のベッドの状況を考えていただきいろいろ他の搬送先を選定しているようでしたが、やはり救急隊からのホットラインは鳴り続けます。“この連絡で受入要請を行った病院が○ヶ所目です・・・”と言う救急隊の悲痛の訴えを何度も聞きました。重症用だけではなく一般病棟のベッドも全くありません・・・“入院が必要になれば転院の可能性もあるけど大丈夫?”という苦しい言葉を漏らしながら、救急車にて搬送された患者さんに対応していました。

ERでの初療の様子(イメージ)

初期輸液に反応しないCの異常に、
気管挿管、輸血、緊急止血術を施行。
(前日のJATECで受講生に教えたことが
そのまま実際の現場で行われました。)

そのような中、救急車で1時間半以上かかる山間部の病院から“肝損傷による出血性ショック”の患者さんの転院搬送の依頼がありました。そのとき救急外来は救出を要した意識障害の患者さんや喀血の患者さん、また近隣のいくつかの市の救急隊から小児の救急搬送で処置室がいっぱいで、またベッドがない状況は変わっていないため受入れは厳しい状態に陥っていました。申し訳ないと思いつつもその時の現状を正直に説明し、“2箇所だけ他の病院に受け入れ要請して下さい”とお願いしましたが、どの病院もベッドがない状態とのことで再度当院に依頼が来たので、“ベッドはないけどこれ以上時間を延ばしたら命はないからまずは診よう!”と決定しました。他の当直医師や看護師さんもすぐに状況を理解してくださり、すぐに受け入れ態勢を整えました。緊急O型輸血の準備、緊急止血術のための各科コンサルト、救急外来スタッフ、当直医の中での役割分担を行い、降りしきる雪の中での1時間半という長い搬送時間を心配しながら待っていました。0時前に救急車が到着し患者さんに接触したときにはすでにひどいショック状態に陥っていて、処置室に入ったところから緊急の蘇生処置を開始しました。危機的な状況にまで追い込まれていましたが最終的には緊急止血術を行って状態の安定を図り、さらになんとかベッドも確保して集中治療室に入院することができました。

でもそのとき同時に重症呼吸不全で“どうしても・・・”ということで受け入れた患者さんは、状態が思わしくないため転院もできず、また入院するベッドもやはりなく、最終的には夜中ずっと救急外来の処置室を入院ベッド代わりにして、救急科当直の管理のもと(徹夜でつきっきりで~す)経過観察となりました。実は入院ベッドがなくて朝まで救急外来で経過観察となった患者さんは他にも数名いました・・・

ベッドがない状況での救急車の対応は本当に悩みます。すぐに受入れれば治療は早くから開始できる、でも一度受入れるとなかなか転院は厳しい現実・・・そして高度救命救急センターで対応すべき重症患者の受入れをしたくても慢性的に病院の入院ベッドがない状況・・・そのような中で昨日の夜はできる限りの対応をしたつもりですが、なかには当院にない専門科の治療が必要な患者さんの当院への搬送依頼を直接その専門科のいる病院へ搬送するようお願いしたり、重症患者2名対応しているときに軽症と思われる交通外傷の患者さんを他の病院に搬送するようにもお願いしました。ひとつの病院だけでは解決する問題ではなく、消防機関や他の病院との連携を含めて考えなくてはいけないことなのかもしれませんね。

白根山や浅間山を望むことができる、
きれいなヘリポートがある病院です。
防災ヘリとのコラボにも使用しました。
ちなみに昨晩の重症患者さんの転院搬送を依頼した病院から、今日の午前中再び重症患者の転院搬送の依頼がありました。天候がよく昼間であったためドクターヘリを利用して、約15分で当院まで患者さんの搬送を行いました。その病院はドクターヘリが運航できないときには、その山間部を守る病院として重症患者の受入を行い、多発外傷、脳血管疾患、心血管疾患などでも根本治療ができる病院にきちんと搬送できるように対応してくださっています。ドクターヘリは現場に早く医療を派遣し医療を開始することが第一の目的ですが、このように重傷者に対応している山間部に病院から早期に根本治療ができる病院に安全に搬送するのも医療過疎の山間部を多く抱える群馬県では重要な役目のひとつと考えています。



ドクターヘリは一昨日に今年度の要請数が600件に達しました。ドクターヘリに関しての話題ですが、3月1日にみどり市立笠懸東小学校にて“命の大切さを考える道徳の授業への参加&ドクターヘリについての出張講演”を行うことになりました。この小学校は群馬県の学校の中で最もドクターヘリが着陸している学校で、児童たちにドクターヘリを目のあたりにした経験を含めて命の大切さ伝えて欲しいという学校からの思いと、ドクターヘリについてもっともっと一般の方々にも理解していただきたいというドクターヘリ側の思いがうまく融合して、このような機会が実現しました。そして今回はフライトドクターの私が参加させていただくことになりました。群馬県のフライトスタッフとしても初めての試みであり、うまく思いが伝えられるかどうか不安がいっぱいですが、せっかくいただいた機会なので参加した皆さんの心になにか命に対する熱い思いを残せるよう当日まで一生懸命準備しようと思います。

コメント

  1. いつも読ませていただいています。救急の大変さがよくわかります。出張授業を通してドクターヘリの重要性が子供たちにも広がるといいですね。
    話は変わりますが、ドクターヘリの運航管理に興味があるのでCSの仕事や苦労、CS室について紹介していただけると嬉しいです。

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  2. 匿名さん、コメントありがとうございます。
    今度CSの特集を組んでみようと思います。生のCSの声のほうがよりリアリティーがあると思いますので、CSの方とも相談してみます。

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  3. 小さな会社のおやじ2011年2月17日 3:00

    町田先生、高度救命救急センタースタッフの皆様方へ
    はじめまして。
    “肝損傷による出血性ショック”の患者が勤めている会社の代表です。このブロブを会社のスタッフから聞いて拝見させて頂きました。私の会社は、零細企業で患者本人を含め3人で自動車整備業を営んでおります。
    この事故により、大切で戦力あるスタッフが1人減り仕事にダメージを受けている状況ですが、小さな会社だけに家族同様に安否が心配でたまりません・・・
    実はこの日、患者のご家族から連絡を受け、国道50号線もシャーベット状の積雪のなか急遽、私も日赤に足を運びましたました。
    到着すると、ご家族から聞いた話が、山間部の病院&救急隊から依頼を受けた群馬平野部の、殆どの総合病院が拒否した!と、伺っております。今まで他人ごとと思えた、今の救命救急医療の数、ベット数、責任問題など、その時に実感しました。
    今回は天候条件も有り、ドクターヘリでの搬送が不可能だったのがとても残念ですが、生死をさまよっている患者を受け入れて戴き本当に感謝しております。
    町田先生の蘇生処置結果の説明を、ご家族と一緒に聞いたのですが、多忙な状況のなかで真剣に迅速に対処してくれたことが理解出来ました。
    止血後、ICUに入ってからは徐々に回復していると聞いております。患者は、まだ、30代前半のまじめなで、素直な働き盛りの青年です。本人次第だとは思いますが、「どうにか、社会復帰出来る様にして下さい。」
    宜しくお願い致します。

    そして、もし、意識が回復したら・・・
    「君を待っている人間が居るってことを」お伝え頂ければ幸いです。

    勝手なことばかりをコメントしてしまい大変申し訳ありません。

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  4. 小さな会社のおやじさん、コメントありがとうございます。
    まずは、ブログの内容が個人情報に配慮を欠いてしまった点をお許しください。しかし、小さな会社のおやじさんからの伝言は、必ず本人に伝えさせていただきます。ICUのスタッフは患者さんの回復を願って24時間体制で全力を挙げて診療を継続しています。
    この日は当院だけではなく他の病院もベッドがいっぱいであったようで、なかなか救急車の受入れが困難だったようです。(当院も重症患者を受入れることが可能な他の病院によく助けていただいており、決してどの病院も拒否したわけではないですよ。)
    平野部(特に前橋、高崎)に重症患者を受入れられる病院が集中しているために、夜間や天候不良時に山間部で重症患者さんが発生すると今回のような長時間の救急車による搬送となってしまいますが、搬送前にその地域の病院が平野部まで患者さんを搬送できるよう対応してくださったり、また重症患者を受入れている間に他の救急車の患者を他の病院で引き受けていただいたりと、決して当院だけの力ではなく他の病院の協力があって、ベッドない状態の中で当院で受入れることができたと思っております。
    医師・看護師不足、重症ベッド数不足など群馬県の医療が抱える問題点は今すぐ解決できるわけではないと思いますが(日本中でそうかもしれませんが)、現場のスタッフはとにかく目の前の患者さんのためにできることをしていこうと考えております。

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  5.  町田先生、雪の中でもご活躍お疲れ様です。ヘリが活躍するのが喜ばしい状況なのか悲しいのか複雑な感じもします。しかし、我々の最後の頼みの綱ですので頑張って下さい。

     小学校での出張講座ですか!良いですね…と言いますか子供たちには貴重な経験ですね。まして自分たちの校庭に舞い降りてきたヘリコプターが何をしているのか、知る事は大切な経験だと思います。是非とも今回の出張講座を成功していただき、県内の小中学校へ継続的な出張講座をお願いできれば、地域の方々もより理解できるかと思っております。ヘリコプター?不思議な活動に対しての子供たちの興味は大きくなっていると思いますし、学校の先生が説明する以上に、実際のフライトドクターから話が聞けるのは楽しみなのではないでしょうか。
     今回は子供たちだけではなく是非ともPTAの方々にも出席していただく事で、校庭への着陸の理解がより深まるかと思いますが…授業の一環では厳しいでしょうかね。

     いづれにしましても、今回の出張講座は今後に繋がる大きな一歩かと思います。頑張って下さい。

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  6. 匿名さん、コメントありがとうございます。

    小学校から主張講演会の依頼があったとき、私たちもこれは大切な機会だと感じました。実際に行われていることを大人に伝えることももちろん大切ですが、未来を担う子供たちにこそ命の大切さを含めて伝えることが、将来の救急医療を支える大きな力になってくれると考えています。私自身も今回だけではなく、今後このような活動がPTAや教育委員会もまきこんで広がっていくことに期待しています。
    あとは僕が小学生や学校の先生にわかりやすく説明できるかどうかが鍵ですね・・・

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  7. 3月1日に町田先生をお招きして授業をおこなわせていただきます。
    今回,私どもの「命の尊さを,命をつなぐ最前線に立つ医療スタッフの皆さんから,直接子どもたちに対して命の大切さを伝えていただきたい。」という願いを町田先生にお伝えしたところ,中野センター長の全面的なご理解とご協力をいただき,フライトDr.による出張授業が実現できました。
    本当に感謝しております!!

    授業そのものにつきましては現在頑張って構成を考えているところですが,子どもたちの心に残るような内容にできれば幸いに思います。

    町田先生,子どもたちも職員も当日を楽しみにしております。よろしくお願いいたします。(プレッシャーにならなければ良いのですがぁ。。。)

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  8. itakuraさん、講演会の準備は着々と進んでいたいところですが・・・当日までには必ずばっちり準備してうかがう予定です。
    今回のこのような企画をご提案いただきありがとうございました。命の大切さはより若い世代にこそ本当に伝えなくてはならないと思います。いい授業、そして楽しい講演会にして、今後このような機会が増えるようお互いがんばりましょう。
    よろしくお願いします。

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